2011年9月30日金曜日

Hedge Fund with PE Mindset


米国に留学してから始めて知ったことだが、PE出身のHedge Fund Managerがとても多い。

HFで働く若手の経歴を見ても、最近は、投資銀行でキャリアをスタートし、PEを経て、HFに至るという例が多いように感じる。投資銀行はコーポレートファイナンスの基礎/詳細なFinancial Modelingのスキルを習得するのに適しているし、PEでは、投資銀行でのアドバイザリー業務では得ることのできない投資家としての視点でビジネスを分析し、Valuationをする機会を得ることができる。特にPE投資では、会社の内部情報にアクセスできることから深くビジネスの精査(Due Diligence)を行い、ビジネスのドライバーが何かを深く考える機会に恵まれる。HFにおいては、上場株投資という仕事の性質上、PE投資と比較すると、得ることのできる情報は限られており、詳細なFinancial Modelは作成しないのが通常だ。しかし、実はきちんとビジネスモデルが反映されたSimpleなModelを構築することの方が詳細なModelを作るより難易度は高く、限られた情報でそのようなModelを構築する際に、前職で詳細なFinancial Modelを作成した経験が非常に役に立つ、というわけだ。

若手に限らず、PE投資で実績を残した人が、HFを立ち上げるという実例も増えている。彼らがそろって言う投資戦略は、「PE投資家の視点を持ったHF投資」、すなわち、「詳細なDue Diligenceを行った上、大きなポジションを投資し、場合によっては上場会社のマイノリティ投資家として積極的に事業/財務戦略について投資先に助言を行う」という投資手法だ。持分を多く持ち、また投資後の(モニタリング及びManagementとのcommunication)コストも高いことから、通常のHFとは異なり、ポジションを10社~15社程度の限定することが多い。本日は、そのようなHFのうち、僕が実際に創業者から話を聞くことができたHFを紹介したい(*1)。


1. Sageview Capital

このような投資スタイルをとるHFとして最も有名なのは、元KKRのパートナーで投資委員会のメンバーでもあった、Edward A. GilhulyとScott M. Stuart(なお、双方ともStanford GSBでMBAを取得している)がKKRを独立して、約10億ドルの資金で始めたSageview Capitalだろう。

Edwardから話を聞いている際に、彼は直截的には言わなかったが、i) 自分がどれだけ頑張り実績を積んでも、KKRはあくまで創業者のHenry R. KravisとGeorge R. Robertsの会社としてしか世の中に認識されないこと、ii) 創業者の二人がが世代交代をする意思がなかったこと、が独立の大きなきっかけとなったということがよく伝わってきて印象深かった(なお、別件でGeorge Robertsからも直接話を聞く機会に恵まれたが、その際の印象等についてもいつか共有したい)。


しかし、(僕の個人的経験からしても)PE投資と上場株投資では、Valuationの考え方等、必要なスキルに多くの点で相違点がある。元KKRのパートナー2人が立ち上げたファンドとしてニュースでも大きく取り上げられたSageview Capitalだが、運用実績は芳しくないようだ。

僕がEdwardから話を聞いていて非常に違和感を感じたのは、Edward自身がPE投資とHF投資では事業のファンダメンタルを見るという意味で大きな差異はないと考えており、KKR時代に行っていたPE的投資を、なんら修正することなく上場株式に適用していると断言していた点だ。
一例として、彼は、とある投資先が、有望な投資先がないにも関わらずバランスシートにキャッシュを積み上げており、それを(配当か自己株取得の形で)株主に還元しないことがいかに不合理で、そのために株価が上がらずにFrustrationを感じているということを話してくれた。しかし、それは(日本の会社では極めてよく見られる)単なるValue Trapであって、他の投資家も、バランスシートにキャッシュがあるのは十分に承知の上で、その会社が株主に対して友好的な経営がなされていないためにディスカウントして評価しているだけである。上場株投資においては、PE(バイアウト)投資と異なり、経営陣を選任する権利はないことから、ストックオプションその他の仕組み/何らかの理由で、経営陣と株主の利害が一致しているかどうかが重要な精査事項であり、株価から判断するに、その会社の経営陣は株主と利害が一致していないことは明らかだ。

経営陣の利害について、他の株主と違った視点を持っていない状態で、Value Trapに陥っている会社の株を買って、ビジネスのアドバイスをするわけでもなく、単に株主還元の話を経営陣にすることをもって「PEスタイルのHF投資」というのであれば、そのPE投資スタイルは、20年前の「Barbarians at the Gate(邦題「野蛮な来訪者」)」の時代のそれ(Financial Engineering)であり、その手法は、日本におけるSteel Partnersに見られるような単なるActivistファンドと変わりない。


元KKRのパートナーが設立したHFの創業者から話が聞けるということで、どのような投資戦略をとっているか等かなり期待していたが、正直、期待外れだった。


2. Pivot Capital

他方で、PE投資スタイルをうまく上場株式に適用して、高いパフォーマンスを達成しているファンドもある。その一例が、サンフランシスコ所在、約5億ドルを運用するPivot Point Capitalだ。


Stanford GSBの卒業生でもある創業者のTony Brennerは、上述したSageview CapitalのEdwardとは大きく異なる、以下の見解を披露してくれた。

  • PE投資家は多くの場合ひどい(Terrible)上場株投資家である。Venture CapitalistやInvestment BankerがよいPE投資家になれるわけではないのと同様である。 
  • 一番大きな違いは、PE投資家は、単にCashflow/EBITDAを増加することにのみ注力すればよいが、上場株の場合、単にCashflow/EBITDAだけでなく会計上の利益も重要であり、何より市場価格に何が織り込まれているかを理解する必要がある。何が織り込まれているかを知って初めて、自分の考え/予測が市場から異なるものだということがわかる。 
  • ただし、PE投資の際に用いる、深いFundamental Analysisを上場株式の持ち込むことは極めて有用である。 Pivot Point Capitalの一番の強みは、PE出身者による、Due Diligenceの能力の高さである。
  • 実際、Pivot point Capitalは、一つの会社のDue DiligenceにPE投資のそれとほぼ同等の2ヶ月程度を費やす。これは通常のHFの約10倍の労力である。したがって、四半期に一つか二つしか投資はしない。




TonyとEdwardの二人から話を聞いて、なぜPivot Point Capitalが上場株の分野で成功し、Sageviewが苦しんでいるか、よく理解できた。



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*1 なお、PEスタイルを採用する老舗HFとしては、Stanford GSB卒業生であもるJohn Scully が創業したSPO Partnersが有名であり、Johnからも興味深い話を聞くことができた。その内容も機会があれば共有したい。