2011年10月11日火曜日

アメリカ製造業の競争力 - 太陽光パネル


  National Renewable Energy Laboratory (NREL)のシニア・アナリストであるAlan Goodrichによる「Solar PV Manufacturing: U.S. Competitiveness in a Global Industry」と題する講演が非常に興味深かったので、その内容を共有したい。



・ 太陽光発電ビジネスにおけるアメリカの競争力
o       太陽光発電(Solar PhotovoltaicPV))ビジネスは、Polysillicon -> Ingot -> Wafer -> Solar Cell -> Solar Panel -> Systemという Value Chainから成る
o       実はアメリカは、これら全体で見るとネットの輸出国である
o       しかし、その大半はPolysilliconによる寄与で、製造に関するValue ChainSolar Cell及びSolar Panel)ではネット輸入国である
o       過去5年で、中国/台湾がSolar Panelの製造の世界シェアを6%から54%に高めた一方で、アメリカのシェアは9%から6%に減少した
・ R&D vs 製造
o       製造においてネットの輸入国なのは、製造コストが、中国をはじめとする新興国の方が安いため、企業が製造の地として、アメリカではなく新興国を選ぶためである
o       イノベーション自体は、依然としてより高度な研究機関やベンチャー投資のエコシステムのあるアメリカで起こることが多い
o       言い換えると、R&Dのみアメリカで起こり、(大量の雇用の発生する)事業のScaling-upは、中国等の新興国で行われるということが多い
o       最先端の製造業では、R&Dと製造の相互コミュニケーションが必要であるため、最近では、R&D自体も中国に移される事例もある
・ アメリカで製造すべきいくつかの理由
o       しかし、中国では、人件費が約15%もの割合で上昇している
o       また、(Solar Cell ではなく)Solar Panelは壊れ易いため輸送中に慎重な取り扱いが必要であり、輸送コストが高い
    この点に関し、中国で生産された太陽光パネルの95%は輸出されている(主として欧州/アメリカに対して)
o       さらには、アメリカの方が資本コストが低い
     一定の前提を置いた試算では、アメリカの太陽光パネル製造会社のEquity投資家の期待収益率は約14%、中国のそれは約20%である
o       最後に、中国は知的財産権保護の問題があり、外国プレーヤーからすると、現地の企業に製造ノウハウが漏れてしまうリスクが常に存在する
・ アメリカの真の価格競争力
o       以上を踏まえてアメリカと中国での太陽パネルの(理論上の)製造コストを計算すると、アメリカの方がコスト競争力がある
o       中国政府による様々な補助金を考慮したとしても、中国のコストはアメリカと同様か若干低いだけである


「政府からの多額の補助金がある太陽光パネルの製造では中国には勝ち目は無い」といった一般的な見方とは異なる、非常に興味深い話だったが、製造コストの計算に際して、会計上の数字としては出てこないEquity Cost of Capitalを含めている点は、理論上は正しいのであろうが、実務上の意思決定の枠組みとは異なると思われ違和感があった。

また、仮にそのような方法を採用するとしても、多額の公的負債と低金利から財政・金融政策の自由度の少ない先進国と比較してより好ましい状態にある中国(をはじめとする新興国)に対する投資がよりRiskyである(したがって、Equity Cost of Capitalが高い)という前提も疑問に思った。

 いずれにせよ、(特に製造業における)Job Creationは現在アメリカで頻繁に議論されるテーマであり、Intelの創業者/元CEOであるAndy Gloveによるゼミ形式の授業における僕の研究テーマでもある。その研究結果についても、どこかのタイミングで共有したい。