2011年10月19日水曜日

LBO in Good Old Days


今週のInvestmentの授業で、1980年代後半のPEファームにとって「古き良き」時代のLBOのケースを学んだ。とても興味深かったので、内容/数字を匿名化/改訂して、その概要及び主たる学びを共有したい。


【対象会社概要】
  • シナジーのない複数の事業を運営する、典型的コングロマリット
  • 事業の大半は工業用製品関連で長期的な成長はGDP成長率程度
  • 各事業のスケールが大きいわけではなく、事実上、全社戦略はなし
  • 過去数年、売上は減少傾向にあるものの、利益率は増加傾向にある
  • 事業の特性から、短期の景気感応度は低く、安定的なキャッシュフローを有む

【ディール①概要】
  • 市場価格の30%のプレミアムで、取締役がMBOを提案
  • 独立委員会がオークションの開催を奨励
  • PE会社Aが市場価格の50%のプレミアムで買収提案し、合意に至る
  • 買収金額(EV)は直近EBITDAの約13倍
  • エクイティの比率は10%(!)。すわなち、Debt / EBITDA比率は12倍。
  • キャピタルストラクチャーの概要は以下の通り
o       Existing Debt      : 1.0x (EBITDA)
o       Bank Term Loan  : 5.0x
o       Senior Sub         : 3.5x
o       Junior Sub          : 2.0x
  • 借入金の加重平均利率は(今となっては信じ難いが)~10%(LIBORは約6%)
  • キャッシュ利払いは前年EBITDAの金額を上回るレベル


質問①:ディール①の結果は?

買収後2年以内に倒産。
主たる理由は、過大な負債。


質問②:PEファームを運営するあなたは倒産の情報を知り合いのバンカーから聞いた。投資家としてこの状況で利益を上げる機会があるか?

ディスカウントされた債権を買う(いわゆる、Distressed Investment)。
取引の詳細は下記のとおり。


【ディール②概要】
  • Senior SubとJunior Subの51%をそれぞれ25cent/$、1cent/$で購入
  • Chapter 11手続を経て、会社の株式持分の60%を取得
  • その後、安定的に成長したキャッシュフローにより借入金を返済し、5年後にRecapitalization(借入追加 + 配当によるキャッシュの吸い上げ)により投下資本の倍の金額を回収した後、最終的に、7年後に第三者への売却により投下資本の6.5倍を回収。


【Key Takeaways
本ケースは以下の点で非常に興味深かった。
  • リーマンショック以前の過度なレバレッジが問題視されたのは記憶に新しいが、似たような事象が80年代後半にも見られ、かつ同じ失敗をしていた点
  • 債権のSecondary市場が未発達で、かつ投資家の倒産法制に対する理解が洗練されていなかったため、Distressed Investmentには大きな収益機会があったと推測される点
  • 工業用製品関連の事業のように、成長ドライバーが限定的な、一見地味な事業であっても、キャッシュフロー創出力が高い事業であれば、借入金をうまく用いることによりリターンを上げることができる点
  • その際に一番重要となるのは、事業を改善する能力である点

もちろん、当時と今とでは、用いれるレバレッジ、PE投資家の洗練度(PE市場の競争の激しさ)、GDP成長等が大きく異なるが、上記の3点目及び4点目(PE投資においては成長事業ではなくともリターンを上げる余地があり、事業改善能力がその鍵となること)は、減少する人口と高齢化からマクロ経済上の成長の余地が限定的な日本におけるPE投資にとって、引き続き有益な示唆を有するものではないかと思われる。