2011年10月22日土曜日

PE投資は人生の縮図?


Investmentの授業で非常に興味深いケースを取り扱ったので紹介したい。当日のゲストスピーカーは、とある老舗ファンドのMDであるA氏。Stanford GSBの98年の卒業生だ。開口一番、彼はこう語ってくれた。

「通 常ビジネススクールでは成功した投資実例を学ぶが、投資ビジネスは当然ながら全ての案件で成功するわけではない。私がMBAで学ばなかったが、その後の投 資ビジネスにおいて極めて大事と痛感したのは、①Fund Raisingと②うまくいかない投資案件をどのように対応するか、の2つだ。今日は2つ目の点について話したいと思う。」

「ヘッ ジファンド等の上場株の投資家であれば、投資テーマが妥当しないとわかった場合には損切り(市場への売却)すればよい。しかし、PE投資では、そういった 案件も含め、すべての案件と長く付き合わなければならない(When you had deals in PE, you live with them)。実際、PE投資のプロフェッショナルの時間の大半はうまくいっていない案件に充てられるものだ。」

 

1. 事業概要

対象会社の事業の概要は下記のとおり(例によって、ブログ向けに匿名化/修正済み)。
  • 対象会社はスポーツ用品のメーカー。ニッチ商品では高いブランド力を有していた 
  • しかし、成功に自信を得て、その後、多様な製品に手を出してしまう 
  • 景気後退による売り上げ減少に対して、ブランド力ではなく、安価な材料の使用と価格引下げ、ディアスカウントストアでの販売により対応 
  • また、製造を南米に移管。その結果、多くの品質問題が生じる 
  • 結果的に、ブランド戦略により成功を収めたナイキ等とは対照的に、ブランド価値が毀損 
  • その後、経営陣が交代。新経営陣が製品の絞込みを含む数々の改革を実行し、事業が回復基調に乗る 
  •  オーナーが同社の売却を決定

2. 投資ファンドによる買収及びその後の経緯

  • 投資ファンドBが同社を買収 
  • 買収後、以下の事実が判明した
    • その年のEBITDA/キャッシュフローが当初予定を大きく下回る
    • 主要顧客との取引が停止し、翌年以降の事業計画が大きく下振れ
    • 事業の季節性に起因する必要運手資金の試算が誤っており、借入金の枠が足りない
  • 対象会社は、事実上の倒産状態に。そして、資金繰りのため、資金調達が必須となるが、借入金の枠は使い果たしている

    3. 投資ファンドの対応

     
    上記のような状況の下、投資ファンドBは追加資金(エクイティ)を提供した。


    上記の事情を考慮すると、純粋に経済的に判断すれば、追加投資はせずに損切りすべき場面のようにも思われる。しかし、PE投資における追加投資の意思決定は、当該案件のみの経済性だけではなく、以下の事情も考慮する必要がある。
    • 経済界/金融業界における評判 
    • 銀行との関係
      • PE投資においては、LBOローンを提供する銀行との信頼関係が非常に重要
    • ファンドレイジングへのインパクト
      • 投資家(LP)は成功した案件ではなく失敗した案件の多寡/取り扱いにより投資ファンドを評価する傾向にある

      以上に加えて、PEファンドのプロフェッショナルに、「決してあきらめない」というメンタリティを植え付け、また、そういった案件を通じて、多くのことを経験し、よりよい投資家になる機会を提供するという意味もあった。

      結果的に、対象会社は、その後、商品/顧客の絞込み、広告ではなく商品開発への注力(誤解を恐れずに簡単に言うと、ナイキ型の事業モデルからミズノ/アシックス型の事業モデルへの変化)、及び大手メーカーより柔軟な仕入れへの対応等の事業改革により大きく収益性が回復。

       当初、大失敗と思われたこの案件は、結果的には大きな成功となった。私自身、事業の改革に深く携わることができ、とても多くのことを学んだ。


      4. PE業界の将来

      PEファンドの数は過去大きく増えた一方で、案件の数の増加は比較的限定的だ。その結果、少ない数の案件を多数の投資ファンドが追いかける形となり、競争が激化している。

      た だ、10年前、私がStanford GSBを卒業し、PE投資の業界に入ったときも、過剰競争の話は既に言われていた。しかし、結果的に見ると、その後もPE業界は成長を続けた。もしかした ら、10年後から振り返ると、「Class of 2012の時代はよかった」なんて言われていることになるかもしれない。

      いずれにせよ、間違いなく言えるのは、投資実行、事業運営、そして事業の売却という企業の様々なステージに関与できるPE投資という仕事は、とてもエキサイティングかつ楽しい(fun)仕事だということだ。



             *        *        *

      A 氏の発言にもあるように、PE投資の醍醐味は、主体的に事業を変革する触媒(Catalyst)となり得る点だと思う。上場株投資では、 (Activistを除き)市場環境・競合状況等の外部環境の変化や事業の期待以上の成功/失敗・自己株買い・配当方針の変更等の内部環境の変化、言い換 えると、「受動的な」(=自分が主体的に関与しない)Catalystに着目して投資をすることとなるが、PE投資では、自分が会社のオーナーとして、会 社の組織/戦略に大きな影響を及ぼすことができる。


      異なる形態の投資に関して理解を深めることは、僕のMBA留学における目的の一つであるが、また一歩理解が深まった気がした。そして、失敗からは決して逃れられず、大半の時間はその対応に費やされ、かつその対応及びそれによる学びが極めて重要な意味を持つというPE投資という仕事は、何か人生の縮図のように感じた。


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