2011年10月29日土曜日

PE投資と心理学

MBA留学のため渡米してから、授業その他の機会で数多くのPE投資家の話を聞いてきたが、多くのPE投資家が口を揃えて言及するのは相手の心理を読むことの重要性だ。

Global Top PE Fundの一つであるTPG Capitalの共同創業者であり、Stanford GSBの卒業生でもあるJames Coulterに至っては、「大学時代に心理学を専攻すればよかったと後悔している」とまで言っていた。

  

彼らが良く例に出すのが、PE投資において、投資先の経営陣の考え・インセンティブを理解し、彼らのインセンティブをPE投資家と調整(align)することの重要性、及びその実行の困難性だ。あるPE投資家は、「PE投資の仕事の半分以上は、投資先の経営陣の考えを理解した上で、PE投資家の希望する結果を実現するために、経営陣を説得する仕事だ」とまで言っていた。

相手の心理を読むことの重要性は、投資後だけでなく、投資の実行の際にも、売り手やLBOローンを提供する銀行との交渉の際にも当てはまると思う。契約交渉の際には、いかに相手が本当に重要視している点(外見上は必ずしも明らかではない)でかつ自分にはそれほど重要ではない点において譲歩し、自分にとって重要な条件を勝ち取るか、が極めて重要であるからだ。


前者の点(経営陣とのインセンティブのalignment)は、経済学における、Principal-Agent Theoryの現実社会への応用の問題と言える。同理論は、Principal(本人)とAgent(代理人)の間の利害が一致すること(いわゆるAgency Costがないこと)がよいことであることを前提に、それをいかに実現するかを考察する学問である。

上場会社を対象とする企業買収において、買収価格に(市場価格に対して)プレミアムが付されるのは、企業の経営権を獲得することに価値があるためだ(したがって、コントロールプレミアムと呼ばれる)。そして、この経営できることの価値の中に、より有能な経営陣を招聘すること、会社の組織・戦略を改良すること等に加えて、Agency Costを減少することも含まれる。

このように考えると、PE投資のリターンの源泉の一つがAgency Costの減少であって、それを実現するためには、経営陣の心理を理解することが重要であるということが理解できると思う。



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Agency Costを減少させることが投資家にとっては望ましいとして、それは社会・経済全体に対してはどのような影響を及ぼすか?

現在、アメリカでは高まる失業率を背景に、アメリカ製造業の衰退(製造業の雇用の減少)が大きく問題視されている。実際、Bureau of Labor Statisticsのデータ(Occupational Employment and Wage Estimate)によると、アメリカ製造業における雇用は過去10年で400万人強(約3分の1)減少した。以前のエントリーでも触れたとおり、成長するマーケット・安価な労働力の双方が海外にある状況下において、先進国の企業が自国内に製造拠点を置くことを、利益最大化/株主価値最大化の観点から正当化することは容易ではない。アメリカが、他の先進国(具体的にはドイツ、日本)に比してより大きな雇用に関する問題を抱えていることは、アメリカの会社が、経営陣による大量の株式・ストックオプションの保有を背景に、最も株主に友好的な経営陣によって経営されていることと無関係ではなかろう。

地球上の資源は有限であって、それを効率よく利用するには、「市場」という仕組みを用いることが有効であることに異議を唱える人は少ないであろう。そして、理論的には、Agency Costを減少することが、地球規模で見た資源の最も効率的な分配を可能としよう。しかし、それは、先進国の雇用、環境問題等の副作用を生むことも事実だ。何事もバランスが重要だ。アメリカの会社は、ステークホルダー間の分配に関して、今後大きな変革を経る必要があるのではないか。ウォールストリート占拠のニュースを見ながら、そう思わずにはいられなかった。



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