2011年10月8日土曜日

Change the world, or make money?


 数々の大物投資家を輩出してきたStanford GSBの名物授業の一つである、McDonald教授によるInvestment Management and Entrepreneurial Finance(ケース + ゲストスピーカーによる講演)の授業の今週のゲストスピーカーは、Passport Capitalの創業者であり現在もCIOを勤めるJohn Burbank。Stanford GSBの卒業生だ。
 
 



    










Passport Capitalは、サンフランシスコを拠点とするグローバル投資ファンドで、John Burbank によって2000年に設立された。現在、約46億ドルを運用している。

彼は、我々生徒に、投資家の視点から非常に興味深い話をしてくれた。本エントリーでは、その内容を共有したい。

1. 3 Forces of Portfolio Management

ポートフォリオマネジメントにおいては、以下の3つの要素を考慮する必要がある。
  • Micro
  • Macro
  • Liquidity/Risk
これら3つは相互に関連しており、全てに精通できるのが一番よいのだが、実際には、投資家はどれか一つに秀でているというパターンがほとんどだ。90%以上のアメリカの投資ファンドは(Value Investingという名の下)Microに注目している。これは、中・長期的に見れば経済は成長するため、個別の企業の情報に着目すればリターンを上げれるという考えに基づいている。過去、この投資方法はうまくいったが、パラダイムシフトが起きる現在のような投資環境においては、MacroやLiquidityも考慮する必要性が増している。


2. Prisoners of Our Era

投資は、時代ごとにTheme/Issuesがあり、どんな投資家も、その制約から逃れることはできない。

過去の投資テーマを俯瞰すると以下のとおりだ。

·        1970年代
o       Issues                     :インフレーション、政府
o       Best Asset Class     :金
·        1980年代
o       Issues                     :ロシア、高い利率
o       Best Asset Class     :デット
·        1990年代
o       Issues                     :日本、グローバリゼーション
o       Best Asset Class     :株式
·        2000年代
o       Issues                     :エマージングマーケット、株式バブル、テロリズム
o       Best Asset Class     :コモディティ
·        2010年代
o       Issues                     :デフレーション、政府、資源枯渇
o       Best Asset Class     :

1990年代にヘッジファンド業界は多数の富豪を生み出し、2000年代には、コモディティ投資によって多くの投資家が成功した。

しかし、その過去に単に追従するのみでは、彼らと同じような成功をすることはできない。重要なのは、今後、何が最もPerformする投資であるかだ。


3. Price is a Liar

学会では、まだ効率的市場仮説とやらが多くの賛同を得ているが、実際は、価格は単に需要と供給によって決まるものであり、それ以外の何物でもない。

実務家の中には、正しい価格を自分で考えるのではなく、価格が正しいことを前提に、そこから逆算して、世の中を見ようとする人がいるが、それは大きな間違いだ。

現在の価格は、将来の価格については何も言っていない。将来大きく上がることもあれば下がることもある。そう、価格は嘘つき者なんだ。



4. 今後10年間の投資テーマ

今後10年間の投資テーマは以下の4つだ。

1) Global Rebalance

西洋だけが栄えるという従来のモデルは崩壊した。

多国籍企業は、世界中のコストの安い場所で生産すること、及び増加している新興国のミドルクラスに販売することの旨みを知ってしまった。インターネット等の発達により、新興国の人々は今まで以上に西洋的な生活を知り、それを欲している。この流れは誰も止めることができない。


2) Persistent Resource Scarcity

 地球上には、全ての人々が現在の先進国並みの生活を営むのを支えるだけの資源は存在していない。また、最近の、長期的には必要な資源に対する投資は極めて不十分である。新興国の人々の生活水準の向上は、必然的に、資源価格の高騰に繋がり、資源を持つ国/会社を潤すとともに、生活を資源に依存する人々に重くのしかかるであろう。

Passport Capitalでは、このような観点から、エネルギー/食料セクターの投資に力を入れている。


3) High Value Human Capital

今後は、資産ではなく、知識が決定的に重要な時代となろう。過去10年間、グーグルやアップルなどの例外を除き、テクノロジー業界の会社の株価のパフォーマンスは芳しくなかったが、今後は異なる結果が待っているだろう。


4) New Cash

新興国の成長によって、必然的に、ドル、ユーロ、円等の先進国の通貨の価値は減少するだろう。以前であれば、最も自由な国であるアメリカに資産を持つ意味はあったが、昨今の民意及び政府の対応等を考えれば、資産家にとってアメリカは安全な場所ではなくなってきている。実際、アメリカから資産を国外移す資産家も増えている。



*   *   *

僕は従前から、新興国と環境が長期的に見た場合の今後の大きな投資/ビジネステーマになると考えており、その観点から、Stanford大学でMBAのみでなく環境科学のMSのコースにも在学している。その意味で、Johnの見解は目新しいものではなかった。

ただ、クラスメートの一人の以下の発言/質問にははっとさせられた。

「エネルギー問題が今後の人類にとって大きな問題であることはあきらかで、それを回避するには、再生可能エネルギー分野において、大きな技術革新が必要だと思う。あなたはなぜ、そのような技術/会社に投資をせずに、問題が解決されないことを前提にエネルギーの会社に投資をするのですか?」



Stanford GSBのミッションは、「Change lives, Change organizations, Change the world」だ。人類が直面するエネルギーという大きな問題に対して、それを解決し世の中を変えようと試みるか、それとも、そのような状況をうまく利用してお金儲けを試みるか。

もちろん、エネルギー問題に限らず、総論では、多くの人が傍観者としてお金儲けをするのではなく、自分が積極的に問題解決を試みるという前者のアプローチが望ましいと言うだろう。しかし、各論ベースで、自己の行動レベルで、それを実現できている人がどの程度いるだろうか?

 結果的に、色々と考えさせられた授業となった。