2011年10月3日月曜日

Strategic Leadership

 
いつもファイナンスの話をしているとMBAで偏った経験をしていると勘違いされてしまうかもしれないので、今回は戦略の話をしたい。

一年目の秋学期(初学期)の授業にStrategic Leadershipがあった。通常のMBAであれば、経営戦略の授業はStrategyまたはStrategic Managementといった名称であると思うが、Stanford GSBでは、あえて異なるStrategic Leadershipという名称を用いている。

なぜ異なる名称を用いるのか、当初は理解できなかったが、授業を受け終わった後、その理由が理解できた。




1.経営戦略論における会社内部要因の重視

経営戦略とは、識者によって様々な定義がなされているが、要は、企業がその置かれた環境下において特定の目的を達成するための長期的計画である。十分な経営戦略と言うためには、①Goal、②Scope、③Competitive Advantageが明確化されている必要があり、さらには、それらの相互関連性が④Logicで説明される必要がある。

経営戦略論の中心は、これらのうち、最も難しい概念である③Competitive Advantageの理解にある。

伝統的な経営戦略論では、HBS教授のMichael Porterが提唱した5 Forces Analysis(*1)による市場構造の分析、及び、Cost Leadership、Product Differentiation、Focusの3つの基本戦略等の概念を用いた製品/サービスの市場ポジショニングの重要性が強調されていた。

しかし、1990年代以降は、競争優位の源泉を、市場構造及びその中でのポジショニングではなく、企業の内部要因に求める考え方が主流になってきた。この考え方は、”resource-based” viewと呼ばれるが、問題は、その内部要因は何かである。有形資産、人材、IP(Intellectual Property)等考えられる内部要因は様々あるが、極めて重要であるにもかかわらず、一般的に過小評価されているのがOrganization Designである。

かかる認識のもと、Strategic Leadershipの授業では、様々なケースを用いて、Architecture(組織図、Incentive Plan等)、Routine(日常業務に関するルール)、Culture(企業文化)の3つが、会社のCapabilityやリーダーシップと内部的に整合していることがいかにCompetitive Advantageの源泉に成り得るかを学んだ。

では、経営戦略の理解に会社の組織デザインの理解が不可欠として、なぜManagementではなくLeadershipなのか。


2. Management vs Leadership

ManagementとLeadershipは似て非なる概念である。

Managementの特徴を箇条書きで簡潔に述べると以下のとおりだ。
    • 測定できる目的を定義する
    • 仕組みとプロセスを明確化する
    • プロセスを効率よくモニターする
    • 問題を解決する
    • 効率的なシステムを構築する
    • 会社を(整頓されたプロセスからアウトプットを出す)機械と考える

他方で、これに対応するLeadershipの特徴は以下のとおりだ。
    • 人を惹きつけるvisionを示す
    • 組織に対して効果的にコミュニケーションする
    • 他人を動機付け、やる気を起こさせる
    • 変革を起こす
    • チームが変化するのを手助けする
    • 会社をCommunityと考える

 両者は異なる概念であり、その片方に長けている人もいれば、どちらか一方にのみ長けている人もいる。あるいは、どちらにも長けていない人ももちろんいよう。


3. Strategic Leadership担当教授からのメッセージ

Strategic Leadership最後の授業で、教授が我々に対して、

「ManagementとLeadershipの双方のスキルを高めて欲しい。なぜなら、両方のスキルを発揮できたとき、見返りが最も大きくなるからだ。」

「つながりを構築することにより分裂を統合へと導き、解釈により混沌を明晰さに変え、Inspirationにより受身の者を突き動かし、戦略により組織に道標を示す、そんなリーダーになって欲しい。」
 
と我々にアドバイスをくれた。

僕は、授業中、ケースの登場人物になりきって議論を進めてきたが、リーダーシップの問題がそう遠くない将来に自分自身の問題となることを改めて感じ、身が引き締まる思いがした。



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* 1 (1)新規参入の脅威、(2)業界内事業者間の敵対関係、(3)代替製品・サービスの脅威、(4)買い手の交渉力、(5)売り手の交渉力、という5つの基本的な要因によって競争の状態が決まるという考え方