2011年11月20日日曜日

エネルギー政策の行方


エネルギー政策の専門家であるGeorge T. Framptonから興味深い話を聞くことができた。

現在、法律事務所Covington & Burling LLPのクリーンエネルギー・気候グループのsenior of counselを務める同氏は、1998年から2001年の期間、White House Council on Environmental Qualityのチェアマンを務めた。その後、法律事務所Boies, Schiller & Flexner LLPのパートナーを務め、2008年から2009年にかけては、オバマ政権のTransition Teamの一員でもあった。イェール大学、London School of Economics、ハーバード大学で、それぞれ、物理学、経済学、法律の学位を有している。

 

1. Fukshimaの影響

彼が話したまず一つ目の点は、Fukushimaの事故は、一般的な受け取られ方に反して、グローバルな視点からは、原子力発電の動向に大きな影響を与えないであろう、という点。

彼曰く、Fukushimaの事故が日本の今後のエネルギー政策には大きな影響を与えたというのは間違いない。しかし、日本以外への影響は限定的と考えられる。ドイツやスイスでは短期的に反原発の世論が盛り上がったが、これらの国々では過去もエネルギー政策につき紆余曲折を経てきており、将来のエネルギー政策はむしろ国内の政治的要因によって決定されるという面が強い。何より、グローバルな視点で見た場合、今後の最も大きな電力の需要増加は中国・インドを代表とする新興国で発生し、これらの国々が原発の建設に積極的である以上、原発増加の傾向は変わることがないであろう。重要なのは、中国、インド、韓国、ロシアが原発の技術開発に積極的であり、輸出産業としての戦略的意義を見出しているという点だ。


2. 原子力発電のコスト競争力

彼は、原子力発電のコスト競争力につき、興味深い話をしてくれた。

曰く、原子力発電は、一般の理解とは異なり、現状の技術レベルでは、一見コスト競争力があるように見えるが、投資の対象としての魅力が乏しい。

各種エネルギー源のコスト競争力を比較する指標として、一般にLCOE(Levelized Cost Of Electricity) が用いられる。LCOE は、プロジェクト期間中のプロジェクト・コストをすべてカバーするのに必要な販売価格(すなわち必要収入額。なお送電・配電コストは含まない)である。この指標で見ると、アメリカでは、原子力発電のコストは、(各種補助金の考慮後であっても)太陽光発電よりは低く、固体の石炭をガス化することで蒸気タービンとガスタービンを組み合わせ効率的な発電を可能とするIGCC(Integrated Gasification Combined Cycle、 石炭ガス化複合発電)と同程度である。

Lazard (2010)
しかし、原子力発電所は、IGCCと比較して、コストの大半が初期投資であるという特徴がある。例えば、1GWの発電所を考えると、原子力発電所の建設費用は約50億ドル(プロジェクトの総費用(初期費用+燃料費等の運転費用)の約75%)である一方で、IGCCでは約10億ドル(総費用の25%)である。原子力発電には、規制の変化、ライセンス等に関してIGCCよりはるかに大きなリスクがあり、投資家はそのようなリスクを好まない、というわけだ(なお、理論上はそのようなリスクはLCOEの計算に(具体的には割引率の中で)考慮されるはずだが、実際にLCOEの計算上使われる割引率には必ずしも全てのリスクが考慮されているわけではないようだ)。
 

3. アメリカの原子力発電

1979年のスリーマイル島の原子力発電所事故以来、アメリカでは新たな原子力発電所の建設は開始されていない(事故後に新たに運転を開始した発電所は、事故時点で既に開発中であったものである)。にも関わらず、アメリカには現在でも104機の原子炉が稼動、原子力発電のキャパシティは世界一の約101GW(世界全体のキャパシティは375GW)であって、電力の20%は原子力発電所でまかなっている。

Frampton氏は、上記で述べた原子力発電所の投資上のリスクから、アメリカでは、大きくLCOE/投資リスクを低下させるような新たな原子力発電の技術が開発されるまでの当分の間は原子力発電所の建設は行われないだろうと述べた。

そして、新たな原子力発電の技術は、今後原子力発電所を多数建設し、急速に技術の蓄積を進めている中国から生まれる可能性が高い、と同氏は言う。中国は、国内の原子力発電所の建設の契約締結に、技術移転を条件付とすることにより、仏アレバ、米ウェスティングハウス(東芝の子会社) から技術移転を受け、国産の第3世代炉の開発を進め、圧倒的な価格競争力を武器に、南アフリカ、アルゼンチン、サウジアラビア等の新興国への売り込みに乗り出している。

彼は最後にこう言った。

「アメリカが自国内で原子力発電の開発を進めるのは現実的ではない。将来、中国によって開発される優れた技術を導入すればいいだろう。」


「アメリカ国内でも近年クリーンエネルギーが大きな社会的注目を集めているが、グローバルの視点で見ると、中国・インド等の新興国のエネルギー政策が何よりも大事なのであって、アメリカの動向はそれと比較すると重要性は低い。」



   *   *   *

氏の言うとおり、今後の世界にとっての喫緊の課題は、急速に増加する新興国のエネルギー需要を、どうやってクリーンな方法でまかなうか、であろう。

しかし、アメリカは、世界のリーダー国として、 世界にビジョンを示すべきではないか。その観点からは、氏の態度は受身に過ぎるように思われた。

最近、僕は、太陽光発電の複数のリーディング企業のリーダー達の話を聞く機会に恵まれた。米国SunPowerのCEOであるTom Werner、米国First SolarのPresidentだったBruce Sohn、そして中国Suntech PowerのCEO/創業者の施正栄(シ・ジェンロン)。今後世界のエネルギーシステムを大きく変えるであろう太陽光発電技術に対する熱いが伝わってきた。





 

特に、First Solarの元PresidentであるBruce Sohnの発言が印象的だった。

「クリーンエネルギー・低炭素社会に関しては、ドイツ・中国がもっともビジョナリーな国だと思う。中国の政治リーダーは自国の持続可能な経済発展にとっていかにエネルギー問題が重要かを十分に認識している。アメリカは、エネルギー問題に関する一般の理解、政治的リーダーシップの双方を欠いている。これは憂うべき事態だ。」

ドイツはFeed-in-Tariff(FIT。電力の固定価格買取制度)の手法を用いて太陽光発電の普及を進めてきた。中国も、国を挙げて、クリーン・テクノロジーへの投資を後押ししている。シリコンバレーで生まれたクリーン・テクノロジーのスタートアップの多くも、研究・開発を経て生産の段階となると、安い労働力だけではなく政府の支援も存在する中国に工場を構えるケースがほとんどだ。最近では、研究・開発でさえ中国で行うというケースも増えてきている。

エネルギーは今後世界で最も重要な分野の一つであり、そこでのリーダーシップは、その国の国際社会における地位に大きく影響するだろう。各国の政策、及び企業間で繰り広げられる競争に、今後とも注目していきたい。


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