2011年12月1日木曜日

社会起業の先駆け


パタゴニアの創業者のYvon Chouinard氏の講演を聴講した。パタゴニアは、いうまでもなく世界的に著名なアウトドア用品製造販売会社だが、14歳でロッククライミングを始め、自身著名なロッククライマーでもあったYvon が、当初は自己の利用のために、ヨーロッパの優れたクライミング・ギアを自分流にアレンジした商品をつくり始めたのがきっかけとなり設立した会社。同社は環境問題に対して積極的な取り組みを行っており、オーガニック・コットンを業界内で先駆けて利用し、その後の業界のスタンダード(オーガニック・コットンの利用)の確立に大きく貢献したことで知られている。

氏は、講演の初めに以下の質問を我々に投げかけた。

利益を出していて株主からは評価されている会社のうちどれだけが、社会的責任を果たしているといえるか?例えば、地雷メーカーは、地雷が軍人よりも民間人を多く殺傷しているという事実をどう受け止めるか?タバコ会社は、吸うと確実に健康を害する商品を売っているが、その株主に社会的責任はないのか?GEは適法に税金対策をしている結果現在米国で税金を支払っていないが、それで社会責任を果たしていると言えるか?

 

1. 我々一人一人が自覚をもって消費すべき

現代の大量消費社会はどう考えても持続可能ではない。我々は市民(citizen)ではなく消費者(consumer)と化してしまった。特にアメリカ人の消費は異常で、世界中の人々が同じような生活をすると地球が7個ないと足りないという程度の資源の浪費をしている。西欧が1.5個なのに対して、この数字は際立っている。ブッシュもオバマも、消費が回復すれば経済が回復すると言い続けているが、消費の拡大は一見経済に貢献するように見えるが、長期的な地球の課題の解決と完全に逆行している。

経済発展、雇用の維持と環境の持続可能性は、消費者による賢い消費によって両立できると考える。高品質の商品は多くの労働を必要とするため、雇用の維持・経済発展に必要な需要の創出に寄与するし、長持ちするため、環境にも優しい。パタゴニアが作っているのはまさにそのような商品だ。

消費者が行動を起こせば、それに会社が反応し、最終的に政府が反応する。直接政府に働きかけても何も変わらないが、我々は、消費行動を変えることにより間接的に政府に大きな影響を与えることができる。


2. パタゴニアの取り組み

パタゴニアは、現在、売り上げ(利益ではなく)の1%を環境関連の団体に寄付している。もともとは、パタゴニアは再生エネルギーで自家発電しているわけでもなく、結局はネットで地球環境を汚染しているので、何らかの形で社会に還元するのが企業としての当然の責務であるという考えから始めた。この取り組みを"1% for the Planet"と呼び、2002年以降、積極的に他社を巻き込む運動を行った結果、現在、約1,500社の参加企業を有するまでに至った。

また、(買い手交渉力の著しく強い)ウォルマートと組んで、多くのアパレル会社を巻き込み、衣服の環境への優しさの度合いを示す指数であるSustainability Indexを衣服に付与し、消費者に選択のオプションを与える仕組みを作るという活動を現在精力的に行っている。

私は、パタゴニアのミッションは、以下の三つであると考えている。まず第一に、最高の品質の商品を作り顧客に届けること。そして第二に、その過程で環境に不必要な負荷を与えないこと。第三に、 ビジネスという手法を用いて環境問題を解決すること(Build the best product, cause no unnecessary harm, use business to inspire and implement solutions to the environmental crisis)。このうち初めの二つが達成できれば、三つ目は自動的に達成できると思う。オーガニック・コットンの利用を他社が真似ざるを得なくなったように、また、Sustainability Indexというアイデアでも挑戦しているように、我々が先導して環境に優しい商品を作り、消費者から評価を得ることができれば、他者もそれに追随する必要が生じ、その結果、業界全体がより環境に友好的な方向に進んでいくようになるからだ。


3. Take Action Now!

君達MBAの学生は、まずは金銭的に成功してから、世の中に還元しようと思っているかもしれない。環境を害しながら、あるいは少なくとも環境問題を無視して、成功してから、慈善家(Philanthropist)となり寄付をするというのは、典型的なアメリカ的な考え方だ。

しかし、もし環境問題に興味があるなら、今すぐに行動に移して欲しい。今すぐ行動に移し、習慣化しないと、そんな問題意識はいつか忘れてしまうだろう。実際、アメリカでは上位10%の所得の人が年間所得の1.5%しか寄付していないのに対して、下位10%の人々は6%分も寄付しているというデータがある。また、コーポレート・ファイナンスを学んだ君達は、割引率を考えると、遠い将来の100ドルより現在の10ドルの方が価値があることを理解しているだろう。今行動に移せば、そのお金は今動き出し、世の中に価値を生み出すんだ。



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近年、社会起業家(Social Entrepreneur)が話題になることが多いが、パタゴニアは社会起業の先駆けとも言うべき会社であると思う。もともと好きなブランドだったが、Yvonの話を聞いて、更に好きになってしまった。




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