2012年2月3日金曜日

コングロマリットとPEファンド

今学期受けている授業の一つに、米国欧州、欧州、新興国のManagement Practiceを比較し、Management(ただし、私企業に限らず、教育、政府等広い範囲の組織に関するもの)の優劣がその国経済発展に大きく影響について考察する授業がある。その授業で、米国のDanaher Corporation(NYSE: DHR)という会社のケースを取り扱った。

Danaher Corporation logo.png

ワシントンDCに本社を置くDanaherの事業は、大きく以下の5つに分けられる:
  1. 環境(水質に関する分析と管理機器、リテール/商用石油のディスペンス機器など)
  2. 試験・計測(電気に関する試験、監視、管理そして最適化を行う機器やツール)
  3. 歯科関連(歯科関連の機器、消耗品、サービスの開発・製造・販売)
  4. ライフサイエンス(ライフサイエンス装置、分析装置試薬、ソフトウェアなど) 
  5. 産業技術(モーション、プロダクトID、センサ&コントロール事業など)

世界50カ国以上でビジネスを展開し、社員数は世界で約5万人という、グローバルなコングロマリット企業だ。

同社の特徴は、積極的に企業買収を繰り返し、価値を創造してきたという点だ。1990年から2001年までのGeorge M. ShermanのCEO在任期間、同社は積極的な企業買収により急成長を遂げ、1986年には16社だった事業会社が、1995年には24社に、2000年には51社まで増加した。同期間に、売上は7億5千ドルから38億ドルまで増加した。


次期CEOを務めたLarry Culpも積極的に企業買収を進めた。以下に説明するように、同社の企業買収は極めてシステマチックに行われていた。

一つ目の特徴は、買収対象を市場の魅力により厳しく篩い分けていた点だ。ウォーレン・バフェットが「困難な市場と有能な経営者が出会ったとき、通常勝つのは市場だ」と述べたのは有名な話だが、同社は、①市場成長率、②循環性(Cyclicality)、③大きな競合がいないこと、④分散化された市場であること、という基準を厳格に適用し、厳格な規律を持って企業買収を進めていた。

二つ目の特徴は、企業買収を、①新たなプラットフォームの獲得、②全く同じ事業を営む既存組織への統合、③類似の事業を営む既存組織への統合、の3つに類型化し、それぞれの特徴に従いもっとも適切なPMI(Post Merger Integration)を進めていた点だ。

そして最後の特徴は、トヨタ生産システムを参考にして、事業の絶え間ない「カイゼン」を可能にする全社システムを構築し、それを買収先に適用し、事業改善を図っていた点だ。同システムは、「全てのものは測定可能」という思想のもと、財務に限らず広範囲に経営指標を策定し、それを常にモニターし、問題を発見し次第、すばやく行動に移すことを可能に仕組みである。Danaherの経営陣は長年の経験により同システムの利用に長けており、これらの熟練経営者が買収先の経営にハンズオンで関与することにより、Danaherの経営のベストプラクティスを効率よく伝播することができた。

コングロマリットというと、コーポレート・ファイナンスの授業等で、「コングロマリット・ディスカウント」を生む一昔前の事業形態として説明されることが多い。ただし、本ブログでも繰り返し述べてきているとおり、市場が効率的であるというのは幻想であり、市場よりも効率よくCapital Allocationをできる経営者はいるし、またビジネス(コスト/売上シナジー)の観点から、複数の事業部門を有することが合理性を有することは十分に考えられる。 現代においても、コングロマリットが成功できることは、Danaherの下記の株価が何よりも物語っているように思う。

 


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実は、Danaherの企業買収の3つ目の特徴である『「全てのものは測定可能」という思想のもと、財務に限らず広範囲に経営指標を策定し、それを常にモニターし、問題を発見し次第、すばやく行動に移す』ということは、PEファンドがやっていることに非常に近い。PEファンドによる価値創造の源泉は、プロフェッショナルあるいは組織としての、事業改善の経験/ベスト・プラクティス導入による投資先の経営改善にあるわけだが、Danaherのように数多くの企業買収を繰り返す成功したコングロマリットは、同じようなスキルセット/経験を持ち合わせているように思われる。

さらに言えば、コングロマリットにおいては同一法人下に事業が統合されることからコスト/売上のシナジーが実現できるのに対して、PEファンドによる投資においては、(投資先によって背後の投資家(LP)が異なることに起因する)利益相反のため、異なる投資先の間のコスト/売上のシナジーの実現は極めて限定的だ。

すると、PEファンドよりも、コングロマリットの方が、企業買収による価値創造において有利な立場にあるようにも思われるが、現実に目を向けてみると、コングロマリットの方が成功しているようには思われない。なぜか?

理由としては、コングロマリットと比べてPEファンドの方が、i) 案件毎にキャピタル・ストラクチャーを柔軟に構成できる、 ii) 案件毎にその投資の結果に直接リンクしたインセンティブの付与が可能でありその結果有能な経営陣の招聘が可能である、iii) 魅力的な機会提供により案件評価において重要な役割を果たす優秀な投資プロフェッショナルの獲得に有利である、といった事情が考えられよう。

この点については、僕自身の考えもまだまとまっていない。機会があったら、一度また深く考えてみたい。


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