2012年3月11日日曜日

シリコンバレーのVCがクリーンテックで成功できない理由

エネルギー業界を取り巻く規制環境及びそのビジネスへの影響に関して学ぶBusiness Model for Sustainable Energyという授業に、KKRのEnergy & Infrastructure投資部門のヘッドを務めるMarc S. Lipschultz氏がゲストスピーカーとして来校した。

同氏は、スタンフォード大学卒業後、ゴールドマンサックス、ハーバード・ビジネス・スクールを経てKKRに入社し、1995年からKKRでエネルギーセクターを担当してきた。



エネルギー分野の投資というと、近年シリコンバレーで流行っているクリーンテックの分野を思い浮かべる人も多いと思うが、アメリカは、石油・天然ガスとも世界有数の産出国であり、これらの伝統的なエネルギーの分野にも大きな投資チャンスがある。

KKRは、①大手のエネルギー会社(Exxon、Chevron等)が手を出さない、あるいは売却する小・中規模の(ニッチ)アセットを、②伝統的な独立のエネルギー会社/投資会社が用いてこなかったinnovativeな投資手法(転換社債の活用等)を用いて、③エネルギーの分野で経験・知識・意欲のあるマネジメントをサポートする形式で、買収・価値向上(具体的には石油/天然ガスの生産拡大)することにより、近年大成功を収めてきた。

同氏からは、通常の伝統的な(エネルギー業界を対象とはしない)投資ファンドとの相違点について、下記の興味深い示唆を得ることができた。
  • リスク・リターンの考え方の違い
    • エネルギー投資に必然的に付随する価格リスク・規制リスクは当然ながら、買収条件に織り込む。具体的には、リスクに応じて、投資認可のためのIRR(利回り)のハードルは高く設定せざるを得ないし、買収の際に用いる借入金(レバレッジ)の割合も通常の案件と比べると少なくせざるを得ない。
  • 社内の投資決定のプロセスの違い
    • エネルギーは相対的に技術的要素の強い分野であるため、外部専門家を活用する必要性が高いのは事実である。とはいえ、それは別にエネルギーに固有の問題ではない。非エネルギーセクター、例えば、テクノロジーセクターの一部についても同様のことが当てはまり、技術的要素はエネルギーを投資対象から外す理由にはならないはずだ。


実は、ここ10年で起こったエネルギー業界の一番の革命は、クリーンテック・再生エネルギーの分野ではなく、伝統的な天然ガスの分野で生じた。そう、シェール・ガスに関する技術革新である。シェール・ガスとは頁岩(シェール)層という硬い岩盤の地層に含まれる天然ガスのことで、従来から豊富に存在することはわかっていたが、経済的に採掘するのが困難と考えられてきた。それが、ここ数年のアメリカにおける技術革新で経済的に採掘することが可能となり、それがアメリカのみならず世界の石油・天然ガスをめぐる資源地図を塗り替える可能性を秘めるに至っている。

天然ガスは、他の化石燃料(石油、石炭等)と比較するとCO2の排出を初めとする環境負荷が極めて低いエネルギー資源であるため、天然ガスがエネルギー・システムでより多くの役割を果たすことは、地球環境にとっては望ましい。 ここでは技術革新の詳細(そして指摘されている環境問題)については述べないが、簡単に言うと、従来からあった、(i)Horizontal Drillingという技術と(ii)Hydraulic Fracturing ("fracking")という技術の組み合わせにより可能となった。

実は、この世界を揺るがしている世紀の技術開発は、エネルギー業界の多額の資金を注ぎ込んでいるシリコンバレーのベンチャー・キャピタル(VC)(の投資先)によって先導されたものではない。これは一つの例に過ぎないが、シリコンバレーのVCは、総じてエネルギー(クリーンテック)の分野では苦戦をしている。その理由につき、Marcは以下の点を挙げた。
  •  シリコンバレーのVCは、全く新しいもの、たとえば再生エネルギーであったり、革新的な新技術に興味を向けがちである。したがって、天然ガスという伝統的なエネルギーにおける、新技術ではなく既存の技術(Horizontal drillingとFracking)の組み合わせという革新をうまく捕らえることができなかったのではないか。
  • エネルギー分野でビジネス上相手とするのは、各地の電力会社等の公共事業(utility)であり、彼らはもっともリスクを好まない(したがって、新しい商品やサービスの購入をしない)生き物である。インターネットの分野で、大企業でも、興味を引くスタートアップの商品やサービスがあればそれを購入するのと比較すると、新商品・サービスが市場に受け入れられるのに極めて長い時間を要する。多くのVCは、その点を過小評価しているのではないか。


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エネルギーからは話が脱線するが、実は、上記の2点目の理由は、以前のエントリー(企業再生の第一人者・冨山 和彦さんとの会食)でも触れた冨山さんとの会食の際に、冨山さんがおっしゃっていた以下の言葉に関連して非常に興味深かった。

「日本と米国のスタートアップの環境の大きな違いの一つは、米国の会社は、大企業であっても、スタートアップの商品やサービスを積極的に購買する傾向があるということだ。たとえば、GoogleやFacebookに務めている人は、皆自分もいつかは起業しようと考えているため、自分の将来の姿を重ね合わせて、スタートアップとの情報交換も積極的に行おうとする。スタートアップにとっては、早い段階で商品・サービスを購入してくれる顧客を獲得し、キャッシュフローを黒字にすることが致命的であり、この点で、日本と米国には大きな差がある。」


シリコンバレーのVCが、クリーンテックの分野では、日本のように大企業の顧客への売上が困難なフィールドで戦っていると考えると、その苦戦も、何かすっと理解できた。


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