2012年4月10日火曜日

マネー・ボール理論のサッカーへの適用

本日のSports Business Financingのゲスト・スピーカーはOakland Athletics(A's)のGeneral Manager(GM)であるBilly Beanだった。Billyは、2003年に出版されたMichael Lewis著「Moneyball」(2011年にBrad Pittが主演で映画化された)に主人公として描かれていることで日本でも有名だと思う。



California出身のBillyは、Stanford大学からのスカウトを蹴って、1980年のドラフトでプロ野球の世界に進んだが、結局プロとしては実績を残すことができず、1989年にAthleticsで引退を迎えた。そして、翌年に球団スタッフに転進し、1997年にGMに昇進した。その後10年間でチームをプレーオフに5回導いている。なお、Stanford大学からのスカウトを蹴ったことは結果的に間違った選択だったと嘆いていたが、今こうしてStanford大学の学生に講義をできることを非常に喜んでいると言っていた。


1. 球団経営者はファンド・マネージャー?

開口一番、彼はこう言った。

球団運営は、投資ファンドのマネージャーの仕事と極めて似ている。与えられた予算を効率的に選手というアセットに割り当て、リターンを最大化することが任務だからだ。我々の独自性は、Wall Streetのスキルをプロ野球界に持ち込んだことだ。」

Moneyballに詳細に描かれているように、彼は過去の膨大なMLBの選手の記録の統計分析を用いて、選手のどのような資質/スキルがチームの勝率と相関しているかを分析した。そして、そのような 資質/スキルを有しているものの、一般の評価が低い選手(Undervalueされている選手)を取得することに注力した。例えば、スピードがあり盗塁を多く成功させる選手は従来は価値のある選手として重宝されたが、分析の結果、そのような資質とチームの勝率と相関関係がないと判明して以降は、彼はスピード/盗塁率は、選手評価において考慮しないようになったという。

A'sのような小規模/中堅クラブがNY Yankees のような巨大なチーム(選手へのサラリーの規模で約4倍の開きがある)に太刀打ちするためには、勝率にもっとも影響を与えている資質/スキルを有した選手に重点的に投資するしかなかったわけである。


参考:2002年度のチーム別サラリー総額(赤がA's)


彼の用いた統計的分析を重視した選手獲得/球団運営は、Moneyballで注目されるようになり、その後他のチームも採用するにいたり、現在では他のチームの多くも、統計分析(Sabermetricsと呼ばれる)の専門家を雇っている。Billyの言葉を借りて言えば、「MLBという市場は効率的であり、したがって裁定機会はすぐに消失することが証明された」わけである。

ただし、Billyは仮にMoneyballが出版されなかったとしても、他球団が同じような戦略をとることになったであろうと言っていた。A'sの成功は既に多くの興味を呼んでおり、チーム経営者がA'sの手法を採用するのは時間の問題であったようだ。


2. マネー・ボール理論の他スポーツへの適用

統計的分析が野球にうまく適用されるのは、野球が、①チームの勝敗が個々人の成績に大きく左右され、②個々人の選手のパフォーマンスが他の選手のパフォーマンスに左右されない(相互依存性がない)という特質を有していることによると考えられる。

では、サッカーのように、上記①、②のいずれも満たさない(①チームの勝敗は単なる個々人の成績のみでなくチームワークに大きく左右される、②ある選手(例えばストライカー)のパフォーマンスは他の選手(例えばパサー)のパフォーマンスに大きく影響される)スポーツには、統計的分析は適用できないのであろうか?(なお、サッカーの他、American Football、BasketballやIce Hockeyもこの範疇に当てはまろう)

この質問に対して、Billyはこう応えた。

「サッカーのような相互依存性の高いチームスポーツにおいては、分析すべき情報が野球ほど単純ではない。しかし、そのことは、統計的分析が有用ではないことを意味しない。より高度な分析が必要となるだけだ。今後、サッカーにおいても、MLBで起こったことと同じようなことが起こるであろう。」


*   *   *

今年、Jリーグでは、ヴィッセル神戸がデータを重視した積極的な選手獲得をしたことが話題になった。しかし、ヴィッセルは、開幕2連勝という好スタートを切ったものの、その後3連敗を喫しており、今のところ望んだ結果は残せていない。

Billyは、近年スポーツ業界には、金融業界やMBA/PhD等を経た数字に強く分析力の優れた若者が多く流入していると言っていた。先日紹介した49ersのCOOであるParaagはその一例であるし、サッカー界に目を向けてもManchester UnitedのMamagind Directorの一人は投資銀行/PEファンド/Stanford MBA出身の元ビジネスパーソンのようだ。

サッカーへの適用に関しては、個人的には、統計上の知識/分析力があればある程度容易に分析ができる野球とは異なり、分析力とサッカーの双方において高度な理解力が必要不可欠であるという点で特徴的であるように思える。サッカーは時代と共に戦術の変化し、必要なスキルもそれに合わせて変化することから、選手評価のmetrics(基準)も柔軟に変更する必要がある。あくまで仮説に過ぎないが、そのような分析のできる人材は稀であろうから、チームがそのような人材を保有することによる競争優位性は、野球の場合に比して大きいのではないか。


いずれにせよ、分析力の優れた人々がスポーツビジネスの世界に入ることにより、チームの経営そして競技パフォーマンスにどの程度影響を与えることができるのかは非常に興味深いテーマである。今後も、スポーツ・ビジネスの動向からは目が離せない。


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